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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

「そして?……」

「一夜だけでたち去りましたがおそらくそのまま水戸へくだったものと存ぜられます」

「やってはまずかった」ちらと内膳に眼をくれた頼胤は、しかし、なにかを暗示しようとしている内膳の唇もとに気づいてはっとした、「そのほう、なにか差し出たことを致したな」

「はて、……とはまた」内膳はそらとぼけた云いぶりで讃岐守を見あげた、「なにごとの仰せでござりましょうや、べつに差し出たことをつかまつった覚えはござりませんが」

「申せ、その使者を、どうするつもりだ」

「どうも御意のほどがようあいわかりませんけれども、その使者とは、亀阜荘さまより水戸への使者でござりますか」

「よもや斬れと申したのではあるまいな」

頼胤は射通すような眼でひたと内膳の眼をねめつけた。内膳の唇もとにあるかなきかの微笑がうかんだ。

「お上には唯今、やってはまずかったと仰せられました、内膳めもさように存じあげまする、亀阜荘さまにはお身軽なままに、ふとすると思召ししだいの気まぐれをあそばします、せっかくしずかな池に石を投じて、あらぬ波をお立てあそばす、これはなんとか」

「亀阜荘のことは申すな」

「申上げずに相済めば申上げは致しません、このたびの上申書によりますると、お身まわりにしきりと勤皇浪士をお近づけあそばし、近くは榎井の日柳長次郎と申す無頼の徒までお出入り