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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

「おとつい江戸から出て来たんですが」大助の頭にも警戒すべしという感じがきた、「……疲れ休めに大洗へでもいってみようと思いましてね、然しこのとおりの暑さで閉口しているところです」

「まあ風呂へおはいんなさい」相手はこう云って歩きだした、「窓から筑波山が見える、なかなかいい眺めだよ」

「後で御挨拶に伺います」

こう云って大助は戸口をはいった。

風呂場は家に似あわず広いがっちりとしたものだった。湯も新しく、なみなみとあるし、隅々まで小気味よく掃除がゆきとどいている。あけてある北側の窓からは、なるほど筑波の翠巒が一望で、宿の主人の心くばりのこまかさがよく感じられた。

――妙な男に会ったものだ、浴槽へつかりながら、大助はそう思ったが、そう思ったとたんに、――まてよ、こいつは……、はっと眼をみはった。

こいつは唯じゃあないぞという考えがひらめいた。新島八十吉とここで会ったのは偶然ではない、偶然というにはあんまり偶然すぎる。

――まてまて、こいつは考えてみなければならんぞ。

かれがこの松八へ泊ることになったのは、誰かが子供をつかって呼び戻したからであった。そして来てみるとそこで新島八十吉に出会った。