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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
呼び戻した当人が八十吉でないことは、顔を合わせたときのかれの驚きぶりでよくわかる。とすれば、ここに八十吉が泊っていることを知っている者がいて、それがかれと面識のある自分を会わせるために呼び戻した。そう考えたとしたら間違いだろうか。
――いや間違いではない、それがいちばん自然だ、でなくってこんな偶然な出会いというものがある筈はない。
ここまでは推察できた。そしてその推察を正しいとして、つぎの問題は「ではどうして自分と八十吉を会わせたのか」ということである。誰かにとって「それが必要」だったことはたしかだ。どうして必要だったのか、なにをさせようというのか。
――それがわからない。正にそれは雲を掴むような問題である。けれども大助はますます好奇心のとりこになった。第一段の推察にあやまりがないとすれば、とにかく既になにごとかが始まったのである。八十吉が行く先をはっきり云わず、なにやらその話を避けたところをみると、謎の正体はそんなところに関係があるかも知れない。
「ちょっと面白くなったぞ」かれは思わず呟いた、「ひとつ新島に泥を吐かせてやろう、おれの大洗もでたらめだがいま頃はあの男もでたらめを考えているに違いない、しかし、どっこい、その手はくわなの……」