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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
云いかたがあまり無礼だったので、秀之進は思わず向き直った。しかし勿論、怒ったのではない、かれは怒りとか悲哀とかいうたぐいの烈しい感情は知らない性質だった。ただあんまり久木の態度が思いがけなかったので、反射的に向き直ったばかりである。だから向き直るとすぐしずかに低頭した。
「仰しゃるとおりです、拙者の不調法でした、ご勘弁ねがいます」
「そうわかればいい、わかったら坐りたまえ、日本人なら聞きすごしのできぬ問題だ、そして貴公の意見も聞こうではないか」
「しかし実際、さきを急ぐものですから」
「黙れ」久木直二郎は叫んだ、「貴公は日本人だろう、日本人ならいま論じている問題よりも急ぐことがあるか、いったい貴公はなに者なんだ、急ぐ用事というのはなにごとなんだ、それを聞こう」
「…………」
黙って見かえす秀之進の眼を久木は噛みつくようにねめあげた。秀之進は冷やかにその眼を受けとめていたが言葉を交わすだけむだのように思い、しずかに会釈をして砂丘を下りていった。
「……待て」
久木直二郎は大剣をつかんで立った。
二
――待て! という声を背に聞いたが、秀之進はそのまま砂丘をおりていった、「よせ久木」