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やなぎばしものがたり
柳橋物語
山本 周五郎
前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页
「いったい誰が」おせんはからだが震えてきた、「……そんなひどいことを、いったい誰が云いだしたの」
「元は知らないけど、あんたの家の前にいる人が見ていたっていうことだわ、でも嘘だわねえおせんちゃん、あたしはそんなこと嘘だと思ったわ、おせんちゃんに限ってそんなことがある筈はないんですもの、あたしだけは信じていてよ」
飛脚屋の者から出た噂だ、おせんはすぐにそう思った。山崎屋の主婦はおしゃべりで、いつも店先には近所のおかみさんや暇な男たちが集まる、お祖父さんがそれを嫌ってつきあわないため、常づねずいぶん意地の悪いことをされていた、その店からは斜かいにこちらが見えるので、幸太が話しに来るのをいつも見ていたのに違いない。そしてもしかすると、杉田屋から縁談のあったことも知っているのかもしれなかった。……おもんに別れて家へ帰ると、彼女はすぐお祖父さんにその話をした。そしてこれからもう幸太の来ないようにはっきり断わって貰いたいとたのんだ。
「人の口に戸は立てられないというのはつまりこういうことなのさ」源六は研いでいた剃刀の刃を、拇指の腹で当ってみながらそう云った、「……どんなに身を慎んでも、悪口の立つときは立つものだ、幸さんが来なくなれば来なくなったでまた悪口の種になる、そんなことは気にしないでうっちゃっとくがいいんだ、一年