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やなぎばしものがたり

柳橋物語

山本 周五郎

前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页

青空文庫

「おまえの足手まといになると思ったんだ、病気で倒れてっからも、爺さんはおまえの世話になることが辛くって、どんなに気をあせっていたか知れなかった、おれにはよくわかったんだ。他人ぎょうぎじゃあないぜ、爺さんはおまえを可愛がっていた、どんなお祖父さんがどんな孫を可愛がるよりも可愛がっていたんだ、おまえに苦労させるくらいなら、いっそ死ぬほうがいいとさえ……おれにそう云ったことがあるんだ、だからおせんちゃん、薄情なようだが諦めよう、爺さんは楽になったんだ、ながい苦労が終ってもうなにも心配することもなく、安楽におちつくところへおちついたんだ、わかるなおせんちゃん」

「幸さん」

おせんが、そう呼びかけたとき、畳一枚もありそうな大きな板片が、燃えながら二人のすぐ傍らへ落ちて来た。

まるで雪崩の襲いかかるように、怖ろしい瞬間がやって来た。苦しまぎれに河へはいる者がたくさんあった、然しそこは折あしく満潮で、はいるとすぐ溺れる者が相次いで、石垣にかじりついている者は頭から火の粉を浴び、それを払おうとして深みへ掠われた。たぶん頭が錯乱したのだろう、なにやら喚きながら、まっすぐに燃えている火の中へとび込んでゆく者もあった。