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ひのとびら

火の扉

岸田 国士

「時事新報」1944(昭和19)年1月1日~7日、1月9日~2月25日、3月1日~3月5日、3月7日~3月8日、3月11日~3月15日、3月18日~3月21日、3月25日、3月27日~3月29日、4月1日~4月3日、4月7日~4月11日、4月15日~4月19日、4月24日~5月4日、5月6日~5月9日、5月13日~5月17日、5月20日、5月22日~5月24日、5月27日~5月31日、6月3日~6月8日、6月12日~6月17日、6月19日~6月22日、6月24日~6月26日、6月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 页

青空文庫

無理にさゝれる酒をわりに平気でうけて、それほどふら/\にならないのは、自分ながらあきれるくらいである。

アパートとは名ばかりの、えたいの知れぬ貸間を彼女は仲間の一人といつしよに宿にしている。その仲間の筒井レイ子という女は、彼女より二つ年下の二十三であるが、先輩としていくぶん幅を利かし、夜も帰つたり帰らなかつたりする。二人の部屋には絶対に男を遊びに来させないことゝいう約束があるので、北原ミユキも、やつと安心していられるわけであつた。

部屋へあがると、すぐ寝る支度をする。店の主人が工面をしてくれたセンベイ布団にくるまる前に、入口に投げ込んであつた一通の手紙をひろいあげる。口もとに冷笑がうかぶ。封も切らずに、破つて、丸めて、部屋のすみへなげすてる。二等機関士と称する若い客の、いつもの美文調の口説である。店へ来ると、まるでそんなことはした覚えがないような顔をしているのが、彼女には面白いのである。が、もう、その手紙のおなじことの繰りかえしに彼女はうんざりしてしまつた。

さて、電燈を消す。横になつたとたん、

「ユキちやん、もう寝たのう?」

と、廊下で、乱れた足音といつしよに、筒井レイ子のどなる声がした。