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ひのとびら

火の扉

岸田 国士

「時事新報」1944(昭和19)年1月1日~7日、1月9日~2月25日、3月1日~3月5日、3月7日~3月8日、3月11日~3月15日、3月18日~3月21日、3月25日、3月27日~3月29日、4月1日~4月3日、4月7日~4月11日、4月15日~4月19日、4月24日~5月4日、5月6日~5月9日、5月13日~5月17日、5月20日、5月22日~5月24日、5月27日~5月31日、6月3日~6月8日、6月12日~6月17日、6月19日~6月22日、6月24日~6月26日、6月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 页

青空文庫

と、そのとき、廊下で、――こゝだ、こゝだという男の声、それと同時に、ドアを激しくたゝくものがあつた。

筒井レイ子は、舌うちをして、ドアをあけた。

「ユキちやんが、いややて。マーさん、あんたじかに頼んだらえゝ。今夜は男やない言うて頼まんとあかん」

マーさんなる男は、なるほど酒に弱そうな男で、からだが先へまいつていることがわかつた。

「お願い、ユキちやん、どこでもえゝ。あゝ、もう動けん」

と、彼は、ドアによりかゝつたまゝずる/\とすべるようにしりをつき、そのまゝ首をがくりと垂れて眠つてしまう。

北原ミユキは、男を見おろしながら、もじ/\していた。

「まあ、こういう次第やから、ユキちやん、そないやかましいこと言わんと……さあ、ほつといて、寝たらえゝんや。うち、おひやほしわ」

そう言いながら、火のない火ばちにかゝつた薬かんの口から、ゴクゴク、水を飲んだ。

大風一過というおもむきであつた。

北原ミユキは、もう出るにも出られず、そうかと云つて、すぐに床を敷くでもなく、部屋の一ぐうへちよこなんとすわり、筒井レイ子のすることをじつとみていた。

筒井レイ子は、自分の夜具を敷いてしまうと、北原ミユキの分も引つぱり出して隣りへ敷いた。