轻松读懂日语经典作品
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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
「時事新報」1944(昭和19)年1月1日~7日、1月9日~2月25日、3月1日~3月5日、3月7日~3月8日、3月11日~3月15日、3月18日~3月21日、3月25日、3月27日~3月29日、4月1日~4月3日、4月7日~4月11日、4月15日~4月19日、4月24日~5月4日、5月6日~5月9日、5月13日~5月17日、5月20日、5月22日~5月24日、5月27日~5月31日、6月3日~6月8日、6月12日~6月17日、6月19日~6月22日、6月24日~6月26日、6月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 页
八
一番わるい結果が君をおとずれるかも知れない。その時はまた、その時の話さ。人間は自分だけの力で生きていけるよ」
八
泣く顔をやつと見られずにすんだ、と彼女は思つた。
尾関との話は、たいてい、彼の生死不明の細君のことか、そうでなければ、彼女のまだ帰らない愛人のことから、だん/\に発展するのが常であつた。もちろん、どつちからも直接そんな話題をもちだすわけではないが、たとえば、尾関が下宿の殺風景なことを言いだすと、彼女は、彼が家庭をもつていた時分を想像して、それとなく同情の言葉をはさむし、彼女が信州の山々に春がくる時分の話をもちだすと、彼は、ふと、その季節を美しく歌つた浜島の詩がたしかあつたなどと、なにげなく言い、戦場にあつてふるさとを想いえがくすべての兵士の心理をおもしろおかしく語りだすといつた具合である。
きようはしかし、尾関は、それきり、口をあまりきかず、彼女が露店で買つた果物の包みをそこへ出すと、たゞ、低く、――ありがとう、と言つて、眼をつぶつてしまつた。
まくらもとに体温表がおいてあるので、手もちぶさたな彼女は、それをとりあげてみる。病名のところに「軟性下疳」