轻松读懂日语经典作品
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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
「時事新報」1944(昭和19)年1月1日~7日、1月9日~2月25日、3月1日~3月5日、3月7日~3月8日、3月11日~3月15日、3月18日~3月21日、3月25日、3月27日~3月29日、4月1日~4月3日、4月7日~4月11日、4月15日~4月19日、4月24日~5月4日、5月6日~5月9日、5月13日~5月17日、5月20日、5月22日~5月24日、5月27日~5月31日、6月3日~6月8日、6月12日~6月17日、6月19日~6月22日、6月24日~6月26日、6月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 页
二
「まあ、まあ……」
と、いつに変らぬ井出夫人の姿があらわれた。
古びてはいるが趣味をこらした調度の、どことなく日本ばなれのした応接間へ通されて、市ノ瀬牧人は、薄地の白いブラウスを無造作に着た井出夫人と向い合い、自分がいまこゝにいることが夢ではないかと思つた。それほど、夫人そのものはこの周囲に溶けこみ、自分だけが別の世界にいることがわかつた。
「こゝはどういうおうちですか?」
彼は、開け放されたガラス戸のむこうに、夏の木立の青々と茂つた庭から、飾りだなの中に並んだ西洋人形や、つぼや、革とじの書物や、壁にかゝつている大きな裸体画や、暖炉の上の珍しい振子時計やに眼をうつしながら、たずねる。
二
「こゝはどういうおうちですか」という市ノ瀬牧人の問いに、井出康子は、いたずらつ子のように笑いながら、
「どういうおうちつて、あたしのうちよ。父が最近なくなつて、そのあと始末をしに来たの。ほかにだあれもいないんですもの」
それはその通りであつた。彼女がかたづくと間もなく、一人の兄は病死し、兄嫁が実家へ帰つてしまうと、独り者の父は、えたいの知れぬ女をどこからか連れ込んで身のまわりの世話をさせていたが、近所の話では、その女にはほかに男があり、父の死後も、がんとしてこの家に居据わるつもりでいるらしい。