轻松读懂日语经典作品
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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
「時事新報」1944(昭和19)年1月1日~7日、1月9日~2月25日、3月1日~3月5日、3月7日~3月8日、3月11日~3月15日、3月18日~3月21日、3月25日、3月27日~3月29日、4月1日~4月3日、4月7日~4月11日、4月15日~4月19日、4月24日~5月4日、5月6日~5月9日、5月13日~5月17日、5月20日、5月22日~5月24日、5月27日~5月31日、6月3日~6月8日、6月12日~6月17日、6月19日~6月22日、6月24日~6月26日、6月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 页
「トムちやん、おなかすかない? すいたら、お握りあげるわ」
握り飯を竹の皮の包みから一つ、つまみあげようとすると、いきなり、にゆつと黒ずんだ大きな手が左右から出た。思わず顔をあげると、浮浪者のような男が一人と、そのそばに、中年の身なりはさほどひどくもない女とが、それ/″\片手をつき出しているのだとわかつた。二人とも口はきかない。差しだした手がすべてを語つているのである。隣りにいた若い女が、康子のひじをつゝいて、小声で教えた――
「だめですよ、こゝでそんなもの出しちや……」
彼女はしかし、知らん顔はできなかつた。残り少い握り飯を一つずつ、その差しだされた手にのせた。
終つたはずの戦争が、こゝにもまだ長く尾を引いているのに彼女はりつ然とした。
「どちらへ?」
と、若い女は、しばらくして康子に声をかけた。
「あたくしたち? ワッカナイですの、北海道の果ですわ」
「わたしたち、樺太からやつと引揚げたばかりなんですけれど、また、行けるようになつたら行こうと思つて……」
「それで? 今からどこまでいらつしやるの?」
「どこでもいゝんです。すぐ渡れるようなところへ行つて、待つてますわ」