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ひのとびら

火の扉

岸田 国士

「時事新報」1944(昭和19)年1月1日~7日、1月9日~2月25日、3月1日~3月5日、3月7日~3月8日、3月11日~3月15日、3月18日~3月21日、3月25日、3月27日~3月29日、4月1日~4月3日、4月7日~4月11日、4月15日~4月19日、4月24日~5月4日、5月6日~5月9日、5月13日~5月17日、5月20日、5月22日~5月24日、5月27日~5月31日、6月3日~6月8日、6月12日~6月17日、6月19日~6月22日、6月24日~6月26日、6月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 页

青空文庫

六

しかし、詩人は残忍ではあり得ないということだけわかる」

「そうかしら? でも、戦争に行くと、だれでも少し気がへんなるんじやない?」

「へんになるね。変にはなるけれども、人間が変わつてしまうということは絶対にないと思う。ふだんはかくされているものが、ふつと現われるだけさ。つまり、いわゆる日本兵の残ぎやく行為ね、あれなんかはだよ、わしの考えでは、どうも、子供の時分から手荒なことをするいたずらぐせが、大人の分別を失つた瞬間、ふつと頭をもちあげて来たもんだよ。その証拠に、そのやり方をみてると、じつに他愛もない、よけいなまね、バカ/\しい強がりみたいなものが多いんだ。これはその行為を弁護することにはならないよ。たゞ、そういうことは、できない人間には絶対にできないんだ。道徳的判断がそれをさせないのじやない。そういう習性がないだけの話さ。そうだ、この習性は、ふだんわれ/\日本人が、それほど恐ろしい悪質なものと思つていなかつたんだ」

六

市ノ瀬牧人は、彼がみずから戦場で目撃したさま/″\の光景をいままた眼の前に浮べるような表情でそれを言い、

「野ばんということが、そんなに恥じではないという不文律が日本の男のなかにはあつたからね」