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ひのとびら

火の扉

岸田 国士

「時事新報」1944(昭和19)年1月1日~7日、1月9日~2月25日、3月1日~3月5日、3月7日~3月8日、3月11日~3月15日、3月18日~3月21日、3月25日、3月27日~3月29日、4月1日~4月3日、4月7日~4月11日、4月15日~4月19日、4月24日~5月4日、5月6日~5月9日、5月13日~5月17日、5月20日、5月22日~5月24日、5月27日~5月31日、6月3日~6月8日、6月12日~6月17日、6月19日~6月22日、6月24日~6月26日、6月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 页

青空文庫

と、市ノ瀬牧人は、これもハンドルを握りなおす。

自転車の衝突事件以来、この二人はお互にだん/\遠慮がとれて、ふしぎに異性という観念をはなれた友達づきあいのできる間がらになりつゝある。それはむろん、北原ミユキに婚約者があるという安全ベンのためでもあるが、それ以上に、これらの両人に共通な性格――そこから来るこだわりのない、あけすけな態度が、双方の警戒をとりのぞいて、同性にさえも求められぬ淡白な友情の如きものをつくりあげているからである。

それにしても、市ノ瀬牧人は、一人の若い女性が自分の背中につかまりながら、その愛人の詩について語るのを聞くのはまことに妙な具合で、自転車のかじを取るのもなか/\容易でない。

しかし、事こゝに及んでは、と、はらをきめ、おもむろにこう言つてみる――

「わが天上の星にさゝぐ、か。北原先生、それじや、せつかくの機会だから、ひとつ、その詩を暗しようしてみておくれんか」

すると、彼女は、ほんとにからだをゆすぶつて、

「いや、いや、それだけはいや……。死んでもいや……」

「いやという法はないに、自分で言いだしといて」

「だから、いやなのよ。