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ひのとびら

火の扉

岸田 国士

「時事新報」1944(昭和19)年1月1日~7日、1月9日~2月25日、3月1日~3月5日、3月7日~3月8日、3月11日~3月15日、3月18日~3月21日、3月25日、3月27日~3月29日、4月1日~4月3日、4月7日~4月11日、4月15日~4月19日、4月24日~5月4日、5月6日~5月9日、5月13日~5月17日、5月20日、5月22日~5月24日、5月27日~5月31日、6月3日~6月8日、6月12日~6月17日、6月19日~6月22日、6月24日~6月26日、6月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 页

青空文庫

が、そこには、言葉とは反対に深いさびしさを読んで、胸がぐつとつまつた。

「きつとご無事でいらつしやるんじやないかしら? 早くたずねておあげになるとよろしいわ。そう、そう、お寒いんでしたわね。ながくお引止めしてしまつて……。あたくし、でも、どうしようかしら?」

ついそう口に出てしまう途方にくれた気持を、彼女は、いまさら相手にかくすことはできなかつた。

「遠くからこられたんでしよう? たいへんですねえ」

と、男はしみ/″\と言つてくれる。

「えゝ、信州からですの。なんでもこの次ぎの船が一週間後になるんですつて……。やつぱり行つてみようと思いますの。それにしても、また出なおすのはやつかいだし……」

「あゝ、この次ぎ宇品へはいる船ですね。たしか本部の連中を乗せてくるはずだから、きつとくわしいことがわかるでしよう」

ぽつりと、そこで話が切れた。男は腕時計を見るかつこうをしたが、途中で時計のないのに気がついたように、

「もうなん時ごろでしよう?」

「七時……十五分……」

と、彼女は、自分の腕時計をみて言つた。

「じや、わしは、とにかく今夜の大阪行臨時列車へ乗ることにしますから……。