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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

「やい、お杉、いつぞやの居候は、どうしたんだ」

五、六日見えなかった呑ンベの繁が、帰って来ると、果たして、こう呶鳴りだした。

「居候って、誰のことを言うんだえ」

「あの、郁次郎っていう、色の生っ白いやつよ」

「勿体ないことをお言いでない。あの方は、私にとっては、昔のご主人様だよ」

「何でもいいが、おれに黙って、何処へ行ったのだ」

「急用がおできになって、江戸表へ、お帰りになったのさ」

「嘘をつけ」

と、繁は、あざ笑って、

「てめえ、あの若蔵の嘘っぱちを真にうけて、何か、小細工をしていやがるな」

「何で私が、お前に隠して、そんなことを」

「やかましい! おれの耳は、地獄耳だぞ。この間、野郎の泊った時、夜の更けるまで、おれが酔いつぶれていると思やがって、ひそひそしゃべっていたなあ何の話だ。よし、夫婦の仲で、そんな水くせえ真似をするなら、おれにも、量見がある」

ぷいと、飛び出して行ったが、そんな行状は、珍しくもない亭主なので、お杉は、悲しい顔をしながらも、抛っておいた。

繁は、桝酒を飲みあるいて、宿場の駕舁だまりへよろけて来た。

「こう、この中に、安はいねえか、安は」

「安は、ここにいら。