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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

玉枝は、小判を見いるような眼で、呟いた。

「ウーム、もう二本。……はやく並べて見ぬうちは、心が安まらん」

「揃いましたら、お約束のように」

「ム。四本目の最後の指には、倍額の二千両与えよう」

三人の眼が、ひたっと、そこに打つかった時、玉枝は、ふいに蛇のような襟頸を伸ばして、

「ふッ……」

と、側の行燈を吹き消した。

「あっ、何をする」

と、郷左衛門の声が、闇の中で空虚にひびいた。しかし、すぐにはっとして立ち上がった。

いつのまにか、襖の境が、一寸ほど隙いて、外の星明りが針金のように透いている。そこの蔭から、どかどかッと、廊下へ向って、誰か逃げた。

「――あっ、見られました。聞かれました。ご、ご家老様ッ。あれを、逃がしては大変です! 早く、早くッ」

その跫音へ、玉枝の声が、甲走ッた。

どんな敵と真向きになっても揶揄的に笑っていられる彼女が、常の不敵さを取りみだして、そうまでに、絶叫したのだった。

薊の毒舌

黄門公のお眼覚めとみえる。

高楼の窓に灯が消えた。白い朝雲が、峰にも、谷にも、含月荘の屋根にもゆるぎ出した。

――四明ヶ岳は夜が明けたのである。

「江戸表までは長い道だ。