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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

老先生は、はっと、気がついたように、睫毛の露を払って、

「これ、郁次郎。そちはなぜ、長崎表から帰って来たら、すぐに、この父の許へ来なかったのじゃ。それが第一に、こんどの災禍を招く因になったのだ……」

「お年を召されている父上に、大きなお嘆きをかけました。ふ、不孝の罪! ……どうか許して下さいまし」

「何ごとも災難だ。わしは、おまえ一人の愛によって生きている。長崎へ勉強にやったのもその為だ。養生所を建てたのもそのためだ。そして、おまえの花嫁になる人と、首をのばして、待っていたのだよ!」

「あ、ありがとうございます。父上、郁次郎の不孝の罪、重ね重ねおゆるし下さいませ。その酬いは、やがて、獄門の上に乗って、世の不孝者の見せしめとなりまする」

「な、なにをいうか。おまえを見殺しにするくらいなら、父は、こんな苦労はせぬ。わしはおまえの潔白を知っている。おまえは決して、大それた、悪事などは働きはしまい」

「ああ、もう、もう、取り返しがつきませぬ……」

「それを、おまえはまた、なんで心にもない自白をしたのだ。女笛師や巫女を殺したのは、自分の所為に相違ないなどと、なぜ、そんな飛んでもない偽自白を申し立てたのじゃ。