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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

奉行所で貴様を下手人と睨めば、なにも、こんな生ぬるい吟味をしてはいない。下手人のホシは他についているのだが、しかし漫然と放免は出来ぬから、役目の手前として、一通りだけのことを訊ねるのだ。はやく済まして、貴様も今夜は、女房のそばへ帰って、晩酌でもやった方がいいじゃないか」

「…………」

「どうしても、口を開かんな! いつまで猫をかぶっていると、為にならんぞ!」

「…………」

彼の顔いろに、男は少し硬直した。

(こいつ、本物かしら?)――そう思わざるを得なかった。それじゃ、唖として対話しない以上は、通じる理はない。

彼は、紙と矢立を出して、筆談を試みようとしたが、全然、盲目だ。冗戯を書いてみせても、笑いもしない。

こんどは、手や、指や、顔の表情で、いろいろに問いかけた。白洲に唖聾をひき出す場合も稀にはあるので、唖の手話には馴れている彼であったが、この男には、それすら通じなかった。いや、通じない顔をしているのかも知れない。まるで生壁へものを言っているようだ。

彼は、煙草を吸うと見せて、いきなり、そばに隠しておいた短銃をつかみ、轟然と一発天井へ向けて放した。

「あっ!」