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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页
唖は、二本の足を、宙に上げて、ぶっ倒れた。――得たり、と耀蔵はその胸いたへのしかかった。唖は、足業をして、二、三度、彼を蹴とばした。
三度めに、今度は、耀蔵の方が、仰向けに倒れた。ひとりと思っていた敵は、いつのまにか、二人になっていた。――いや、たちまち、三人にふえて来た。
があんと、何か頑丈な得物で、脳心を打ちこまれたように、耀蔵は、気が遠くなった。ごろごろと、耳の鼓膜が鳴ったと思うと、彼は、それきり、意識を失ってしまった。
「あ。お頭領……」
唖に加勢をしていた掏摸の新七は、そのまま加勢に駈けつけて来た覆面の男を見て、そう言った。
「はやく、片づけろ、そいつを」
「河へでも、蹴込んでおきゃあいいでしょう」
「奉行所の近くだ。すこし、まずいな……」
「では、どうしますか」
「そこらの、小舟を攫って、運んじまえ」
「え、どこへ?」
「品川沖へでも持って行って、沈みをかけてしまえば一番いい。……それに、てめえたちだって、破獄したばかりの体だから、しばらくの間、海風にでも吹かれて、ほとぼりを、さましていろ」
「なるほど、一挙両得というわけで」
「おい」
と、唖へも、顎を向けて、手まねで、耀蔵のからだを縛れと命じた。