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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

「見ろ、今夜こそは」

仲間に早変りした耀蔵は、軒下を小走りに尾けて行きながら、心の裡で叫んだ。

「――きっと、巣を、突き止めてやるぞ! 彼奴らの巣を!」と。

だが、賢い、すばやい、彼女の六感は、たちまち背後の不安な空気を感じたらしかった。数寄屋橋の袂まで来ると、

「駕屋さん――」

と、白い手をあげた。

「あっ」

と、耀蔵があわてる間に、彼女をのせた町駕は、山の手の方へ向って、もう風のように駈けていた。

「駕屋、駕屋」

と、耀蔵もすぐに、手を振ったけれど、風態の悪い仲間の呼び声に、おうっと、すぐに応じて来る駕屋はない。

「面倒だ」

耀蔵は、駈け出した。

足と足である。向うは駕籠、こっちは空身である。

宙を飛んで、後を尾けて行った。

――と先の駕は、外濠に添い、増上寺の山内に隠れ、白金台を一気に駈けて、やがて、目黒の行人坂の途中、紫陽花寺の門前で止まったと思うと、女の影は、駕を脱けて、ひらりっと、山門の中へ隠れ込んでしまった。

山城探索

「さては、悪人どもの巣は、この寺内か」

と、耀蔵もつづいて、山門を潜った。

庫裡の窓に、明りが映している。彼は、その下へ忍び寄った。