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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页
「この上は、獄門、逆磔、いかなる極刑も甘んじてうけまするが、どうせの罪ほろぼしに、公儀の大事にかかわるもう一つの陰謀を、併せて自白したいと存じます。そして、心涼しく刑をうけたい願いにござります」
「神妙じゃ。――したが公儀にかかる陰謀とは」
「党類も数多あって、諸藩へもかかわることですから、願わくば、別室を拝借して、ひそかに申し上げたいと思いますが」
「フーム」
と、老先生は、ちと、むずかしい顔をしたが、羅門の悔悟が、偽りではないらしいと見て、
「よろしい、何事か知らんが、ここで言われぬ事とあれば」
と、別室へ連れて行って、二人きりで、対座した。
さすがに、恥を知るか、羅門は、両手をついたまま、いつまでも、ひれ伏していた。けれど、余りにそのもじもじしている間が長いので、老先生も、少し、焦れッたくなって来た。
すると――ギリギリギリ、と遠い書院か何処かで、時計の音がした。老先生は、はッとした。今のはもう、夜明けに近い、六刻前の時計ではないか。
さては、この底の知れない極悪人は、わざと、最も深刻な故意と用意をもって、自分の時刻をつぶしているのではあるまいか。