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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

家具の配置は、ざっと、こんな按配であるが、そこに散雑している物は、薩摩焼の茶碗だの、笛だの、血みどろな女の衣裳だの、燃えさしの蝋燭だの。……目も向けられない惨状。

そして、まだまだ驚くべきものがあった。

それは、商人態の、四十前後の、男の死骸である。

男の死骸には、刀痕はなかった。絨毯やふすまや障子に乾びついている黒い血しおの斑痕は、すべて十五夜の晩に、鎧櫃に入れて運び出された死笑靨を泛かべていた美人――ここの女主人のお雪様の血しおと見ていい。

「どうでしょう与力、この態は」

「案外だな。……しかしなかなかいい暮しをしていたとみえる、すべてが大名道具だ」

「だが下手人の思慮にも似あわしくなく、どうして今日まで、このもう一つの死骸や、兇行のあと始末をつけないのでしょう」

「あの晩、鎧櫃に入れて、二度にして運んで隠すつもりだったろうが、その最初に、唖が捕まったので、余燼をさましているのだろう。今に必ず、気がかりになって、ほんとの下手人が覗きに来るにちがいない。ウム……こうしよう」

東儀与力が一代の智慧をしぼって、ふたりに何か囁いた。――以来この家の小門は、前のとおりに閉めて、森としたまま、二、三日を経過した。