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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

「さあ? ……」

と、二人が考えていると、

「顔は見えぬが、肩とか、身丈とか、どこかに記憶があるだろう。毎日こうして張込んでいても、一目でピンと勘に来ないようでは、まだ貴公たちもお若いぞ」

「畏れいりました。……成程、そういわれてみるとどうやら」

「思い出したか。いつぞやの晩、麻布のお雪の空家へ吾々が張込んでいた時に、玉枝玉枝と、二度ほど呼びながら這入って来たあの覆面だ。また貴公たちは、十五夜の晩、増上寺の境内でも見かけておるはずだのに……」

「ウム、似ています!」

「最前から四半刻も、あれに立って慄然としたまま、動き得ないように竦んでいる様子からして何とも不審な挙動だ」

「いかにも、ただの見物人ではありませぬな」

「万が一にも、大丈夫とは思うが、万一、腰の刀でも引き抜くと、この混雑の中で多数な怪我人を出すから、充分に、気をつけい」

「承知しました」

二人は目くばせを交わして、さっと、見物人の中へ姿を隠した。

東儀はその位置を離れずに、疑問の編笠の人物と、二人の部下がそれへ近づいてゆく間隔とを、三角線に見つめながら、掌脂を握って捕縄の飛ぶのを待っていたが、加山も波越も、人波の中に屈み腰になったまま、いつまで経っても、侍の背後へ迫ってゆく様子が見えない。