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よあけのつじ
夜明けの辻
山本 周五郎
「新国民」1940(昭和15)年12月~1941(昭和16)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,801 字 · 86 页
彼等が武家屋敷の辻を曲って、街道口のほうへ去ったとき、それと行違いに、功刀伊兵衛が辻を曲って来た。
そして津田家の玄関へ入って国老に面会を申入れた。
しかし面会は断られた。
「御家老にはただいま御多用で、お会い申す暇がないと申されます」
「しかし手前の用向も同様、今日鬼鉾山で討果された江戸詰家中の者の処置について、ぜひともお訊ね申したいことがあるのです。いまいちおうお取次ぎください」
「他ならぬこなたさまのことゆえ、お会いできるものならお断りはなさいますまい、今日はお帰りを願います」
「……ではひと言、伺っておきたいが」
伊兵衛は家扶の眼を見すえるようにしながら云った。
「山県大弐どのは御当家にまだ御滞在ですか」
「さあ……それは」
「もう御出立ですか」
家扶は伊兵衛の視線から眼を外らした。
「まだ……さよう、まだ御滞在かと思いますが、あるいは御出立になったかも知れません。わたくし用事にとり紛れて、そのほうのことは存じませぬが」
「……ではいたしかたがない」
伊兵衛はもういちど家扶の眼をみつめてから、会釈をして外へ出た。
しかし門を出て、長屋塀について三十歩あまり行ったとき、津田邸の裏に当って、すさまじい人の叫声と、物の引裂ける音が起ったのを彼は聞いた。