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よあけのつじ

夜明けの辻

山本 周五郎

「新国民」1940(昭和15)年12月~1941(昭和16)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,801 字 · 86 页

青空文庫

三の二

金に眼が昏むとか、女に迷うとか、権勢に執着するとか、大きい人物は大きいなりに、やっぱり弱点を持っているものだよ」

「国老になにかそんなことがあるのか」

「小幡は小藩でも由緒ある織田の直流だ。この藩政を自分の手に握っているということは、誰にしたってそう不愉快なことじゃないさ」

二人は功刀の屋敷へ曲ろうとしていた。するとそっちから、雪を蹴立てて、ころぶように走って来た者がある。

「あっ、兄上さま」

妹の佐和であった。

三の二

「佐和じゃないか、どうしたんだ」

「お捜ししていましたの」

佐和は蒼白く、ひきつったような顔をして、息を喘がせていた。

「兄上さまがおでかけなさるとすぐ、土井さまと山口さまのお二人が」

「二人がどうしたって」

「大弐を斬るとおっしゃって出ていらっしゃいました」

「桃井はどうした。久馬は」

「桃井さまはお足の傷が痛みだして動くことができず、家で臥っておいでなさいます」

伊兵衛は思わず呻いた。

――もしや?

さっき津田邸を出たとき、裏庭のほうでただならぬ物音がした、不審に思いながらそのまま来てしまったが、もしや……あのとき二人が斬り込んだのではないだろうか、物音は烈しかった。