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よあけのつじ
夜明けの辻
山本 周五郎
「新国民」1940(昭和15)年12月~1941(昭和16)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,801 字 · 86 页
四の四
かっと喉を劈く声とともに、十郎兵衛が体ごと突込んで来た。伊兵衛はわずかに体を躱した。そして十郎兵衛が烈しくのめって行くのを見たとき、
――正しき道。
という言葉がちらと頭へうかんだ。
――もし朝廷のお召があったら、家を捨て身を捨てて、即座に京へはせ上る覚悟があるか。
そう云った大弐の語気が、まざまざと耳底に甦ってきたのだ。幕府制度を固くするためにのみ、歪められてきた武士道、忠義を唱えながら、そのもっとも本質たる朝廷への精忠という意義を蔽い隠してきた武家道徳、その正体が朧げながら伊兵衛には分りはじめたのだ。
「よし来い十郎兵衛」
伊兵衛は決然と叫んだ。
「おれはいま小幡藩士の功刀伊兵衛ではない。もっと大きな、武士が武士として踏むべき道に立っているんだ。一人もここを通さんぞ」
「かかれ! たかが伊兵衛一人、斬って通れ」
十郎兵衛が雪を蹴って殺到した……降りしきる雪の中に、白刃が条を描き、蹴立てる雪が煙のように闇を染めた。
四の四
来栖道之進が江戸から帰って来たのは、それから七日目のことであった……同行した斎藤孫次郎はそのまま自分の家へ帰ったが、道之進は旅装のまま津田邸を訪れた。