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よあけのつじ
夜明けの辻
山本 周五郎
「新国民」1940(昭和15)年12月~1941(昭和16)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,801 字 · 86 页
一の四
佐和は可笑しそうに肩を竦めながら、慌てて水口へ跳んで行く兄の姿を見送った。
伊兵衛は猟が好きである。
また上州小幡という土地が狩猟にはもってこいのところで、季節になれば熊、鹿、猪、猿などが多く出るし、兎などは子供でも猟れるほどいる……亡き父親の伊右衛門が猟好きで、鉄砲も良いものを持っていたし、また体を鍛える意味で幼少の頃から伊兵衛を伴れて歩いたものである。だからこの付近十数里の猟場なら、彼は本職の猟人よりずっと精しく知っていた。
――ひとつ出掛けようか。
と云ったのは、むろん銃猟に出掛けようかという意味だ。しかし母親の喜和は猟嫌いだった。良人がいちど猟さきで誤って犬を射殺して以来、彼女は猟と聞くだけで色を変えるほど嫌いだった。
「……なんと云って許してもらおう」
着物を着ながら、伊兵衛は遊びに出掛ける少年のように、真面目になって思案していた。
一の四
ちょうどその頃、鬼鉾山へ登る道で、主従と見える二人の男が膝を没するほどの雪に悩んでいた。
一人はゆうべ国老の邸で講演していた山県大弐である。従者は二十二三と思える小柄な青年で、痩せた少し前跼みになった肩と、反対に仰向になっている頭とがちょっと異様な印象を与えていた。