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よあけのつじ
夜明けの辻
山本 周五郎
「新国民」1940(昭和15)年12月~1941(昭和16)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,801 字 · 86 页
四の二
大弐はそれを伊兵衛の肩へ掛けてやった。
「これでいくらかは凌げるであろう」
「お借り申します」
伊兵衛は素直に受けて会釈した……そしてふと、初めて津田邸の講筵に出たとき、
――ずっと火桶の側へお寄りください。
と聴衆にすすめていた大弐の姿を思出した。いかにも角の円い、親切な思いやりであるが、伊兵衛には笑止に見えた。今もまた同じように、いったんは白刃を擬した間柄であるのに、寒さを凌がせようというとりなしが、なんとなく取ってつけたような、空々しいものに思えてならなかった。
――まあどうにでもしてみろ、そんなことで籠絡される相手とは違うぞ。
伊兵衛はそっと冷笑して、
「拙者が御案内に立ちましょう」
と二人の先へ立って歩きだした。
板鼻の宿へ入ったのは、夜の十時頃であった。いちどやんだ雪が、その時分からまた吹雪だしたので、松葉屋という宿屋へ入って、三人は草鞋を脱いだ。
四の二
「山県どのはさきほど『正しき道』ということを云われた」
「申しました」
「あなたの説かれる『新論』の説が、正しき道だと云うのですか」
宿の湯へはいってから座敷に相対するとすぐ、伊兵衛は膝を正して切出した……大弐は静かな光を湛えた眼で、若者の顔をひたと見戍りながら、