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よあけのつじ
夜明けの辻
山本 周五郎
「新国民」1940(昭和15)年12月~1941(昭和16)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,801 字 · 86 页
三の一
――なんだ。
伊兵衛は立止って耳を傾けた。
しかし、もうなんの物音もしなかった。吹きまくる雪に包まれて、国老の屋敷は森閑と鎮りかえっていた……胸に喰込むような、凄惨な叫びであった。急に板の引裂けるような物音だったが……。
「そら耳だったのか」
伊兵衛は呟きながら歩きだした。
三の一
津田頼母に面会を断られた功刀伊兵衛は、その足で斎藤孫次郎を訪ねた。ところが孫次郎はいなかった。
「急の御用で、たったいま、江戸へお立ちなさいました」
「一人でか」
「来栖さまと御一緒だと伺いましたが」
留守の者にはそれだけしか分らなかった。伊兵衛はそこから紙屋十郎兵衛の家へ廻った。彼はまだ部屋住の気楽な身分で、かなり年の違う弟が一人ある。伊兵衛が庭のほうから覗くと、彼は弟と一緒に雪まみれになって、おそろしく大きな雪達磨を拵えているところだった。
「やあ、どうした。なにか用か」
「ちょっと話がある。出てくれないか」
「よし、すぐ表から廻って行こう」
十郎兵衛は支度を直して表から出て来た。伊兵衛は一緒に自分の家のほうへ向いながら、声をひそめて云いだした。
「十郎兵衛、鬼鉾山で斬られていた四人には伴れがあった」