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よあけのつじ

夜明けの辻

山本 周五郎

「新国民」1940(昭和15)年12月~1941(昭和16)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,801 字 · 86 页

青空文庫

五の一

御家老の御身分が御安泰であることを願っているだけです」

「そのために県先生を幕府へ訴えよと申すのか。さような不義無道を犯してまで、お家を安泰にしおのれの身を全うせよと云うのか……帰れ、もの申すも穢わしい。帰れ道之進」

道之進は黙って頼母の眼を見上げた……蒼白めた顔に、剃刀のような双眸が鋭い光を放っていた。彼は静かに座を滑ると、

「お怒に触れまして恐入ります」

と平伏しながら云った。

「なれど、いまいちおう押して申し上げます。御家老の思召がどうありましょうと、幕府の方針はすでに決定しております。少将さまはじめ、松原一味はかならず県先生を訴えるに相違ございません。いずれにしましても、先生の運命は明白でございます。ここは御家老の御意志を決すべき、大切な場合と存じます」

そして道之進は退座して行った。

五の一

「もし、もし……」

闇の中から、あたりをはばかるような呼声であった……伊兵衛は油断なくあたりに眼を配りながら足を停めた。

「誰だ、呼んだのは拙者か」

「おおやっぱり、旦那さま」

そう云いながら、路傍の木蔭からとびだして来たのは家僕の五郎次だった。

「やっぱり旦那さまでございましたか、お待ち申しておりました」