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よあけのつじ
夜明けの辻
山本 周五郎
「新国民」1940(昭和15)年12月~1941(昭和16)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,801 字 · 86 页
一の一
一の一
功刀伊兵衛がはいって行ったとき、そこではもう講演が始っていた。
二十畳と十畳の部屋の襖を払って、ざっと四十人ばかりの聴講者が詰めかけていた……下座の隅に坐った伊兵衛は、側にあった火桶を脇のほうへ押しやりながら、静かに周囲を見廻した。
この家の主人、国家老津田頼母をはじめ、豊道左膳、笠折吉左衛門、河村将監らの老職の顔もみえたし、こんな人がと思われる老人や、また学問などとはおよそ縁の遠い、紙屋十郎兵衛、斎藤孫次郎、小林大助などという、若手の乱暴者たちもいた。それからもっと異様な風景だったのは、下座の隅のほうに、婦人たちが四五人熱心に傾聴していたことである。
ここは国家老の家で、二十畳の部屋には上段が設けてある、講演者はその上段のすぐ下のところに端然と坐り、机の上に書物を披いて講演していた。
――これが山県大弐か。
伊兵衛は手を揉みながらじっと見た。
年齢は三十五六か、どちらかというと小柄のほうだし、骨組もあまり逞しくはないが、高くて広い額と、やや大きめな唇許と、それから深い光を湛えている静かな、澄んだ双眸が、いかにも意志の強さを表しているし、またどこかに人を惹きつける柔かい魅力を持っていた……。