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よあけのつじ

夜明けの辻

山本 周五郎

「新国民」1940(昭和15)年12月~1941(昭和16)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,801 字 · 86 页

青空文庫

そしてすぐに止んだ。二人があのとき斬り込んだのだとすると、物音がすぐに止んだのは……権現堂の四人と同じ運命に遭ったのではなかろうか。

「十郎兵衛」

伊兵衛は振返って、

「貴公は妹と一緒に家へ行ってくれ、久馬を頼む」

「貴公どうする」

「二人は津田邸へ斬り込んだ。手後れかも知れんが見て来る。久馬を頼む、誰が来ても渡すんじゃないぞ」

そういうなり、伊兵衛は足袋はだしになり、傘を妹の手に押しつけざま走りだした。

表から行っても無駄だと思ったから、津田邸へ駈けつけた彼はすぐ裏手へ廻った。雪はますます密かに降っている。吹き巻く風に煽られて地上から舞立つ粉雪が縦横にその灰色の幕を翻した。

伊兵衛は厩舎の屋根にとびついて、その上によじ登った。そして、積っている雪の中に身を伏せながら内庭のようすを窺った。

正面に五十坪あまりの母屋が建っている。左に続いて離れ屋と茶室があり、そのうしろに主が『望翠楼』と号けている高二階、破風造りの閣が建っていた。

どこにも人気はなかった。結構を凝らした泉庭も今は雪の下に埋れ、まき立つ吹雪だけが空しい舞を舞っている……大弐がいるとすればあの望翠楼だ。