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よあけのつじ

夜明けの辻

山本 周五郎

「新国民」1940(昭和15)年12月~1941(昭和16)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,801 字 · 86 页

青空文庫

「あの二人はどうしたかと思いましてね」

「兄がすぐまいりましたし、まだ帰って来ないところをみますと、お二人も御無事でいらっしゃるのではないでしょうか……兄は御家老さまとは別懇でございますから」

表に人の帰って来た気配がした。

――紙屋さまだ。

そう思ったので、

「ただいまお食事を持ってまいります」

と云いながら佐和はそっと立上った……玄関へは母親が出ていた。そこには紙屋十郎兵衛が、四五人の若侍たちを伴れて来ていた。みんな厳重な身拵えである。槍を持っている者もあった。日が暮れても兄が戻らないので、十郎兵衛がようすを見に行ったのだが、そんな身支度で、五人も一緒に戻って来たのは、兄の身になにか異変があったのではないだろうか……佐和は顔色を変えた。

「紙屋さま、兄は……」

「国老の屋敷にはいませんでした」

母親と話していた十郎兵衛は、佐和のほうへ元気な眼を振向けて続けた。

「いま御母堂にお話し申したのですが、国老の屋敷にはいませんでした。しかし山県大弐が夜道をかけて発足しているので、おそらくそれを追って行ったものと思います。それで我々もあとから追ってみるつもりなんですが」