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よあけのつじ

夜明けの辻

山本 周五郎

「新国民」1940(昭和15)年12月~1941(昭和16)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,801 字 · 86 页

青空文庫

生死をまるで度外にした、不抜の信念、ずんと一本つきぬけた意志が、その全身から熱のように放散していた。

生死を超えて『道』のために自分を投げだしている強さ! それが伊兵衛の胸を圧倒したのである。道を踏む者の無我の気が、伊兵衛の手足を縛りつけたのだ。

「山県どの、おーい」

走りながら伊兵衛は叫んだ。凍てた雪が、足下でばりばりと鳴った。およそ七八町、足も宙に追って行くとやがて……立止っている主従の姿が見えた。

「お待ちください。山県どの」

伊兵衛は近寄りながら、

「さきほどのお言葉について伺いたいことがある。話が済むまではけっして乱暴はしません」

「東寿、退っておれ」

大弐はそう云って振返った。

「御不審があるならお話し申そう。しかし、夜も更けて寒気も厳しく、道の上の立話もなるまい。よろしかったら板鼻の宿まで同道なさらぬか」

「望むところです。御一緒にまいろう」

「笠も合羽もなく、雪まみれでは寒かろう」

大弐は伊兵衛の姿を、改めて見直すようにしながら云った。

「東寿、包の中になにかあろう。出してお貸し申すがよい」

盲人は背から包を解き下し、綿の入った十徳のようなものを取出した。