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よあけのつじ

夜明けの辻

山本 周五郎

「新国民」1940(昭和15)年12月~1941(昭和16)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,801 字 · 86 页

青空文庫

その主家が、幕府とともに大逆の軍を催したとして、あなたは即座に京へはせのぼることができますか」

伊兵衛は言句に詰った。

「功刀どの?」

大弐は静かに、微笑さえ含んで続けた。

「これはむずかしい論ではない。日本の国民として、あまりに分りきった話です……しかし、あなたはすぐに答えることができない、なぜ答えられないのかお分りですか。つまりあなたも、分りきったことが見えなくなっているからです」

そのとき階下から、なにか罵り交わす人声が大きく聞えてきた……そして、それに続いてばたばたと、家の中へ踏込んで来る跫音が、廊下から階段へと近づいて来た。

「……先生」

部屋の隅にいた東寿が、そっと小剣を引寄せながら片膝を立てた……伊兵衛は即座に立上って、

「拙者が見てまいりましょう」

と出て行った……大剣を左手に、階段を下りるとばったり出会ったのは紙屋十郎兵衛だった。後に四五人、家中の者がいた。

「おお功刀、無事だったか」

「紙屋か、これはなんの騒ぎだ!」

「貴公がどうしたかと思って追って来たんだ。どうしたあいつは、大弐は斬ったか」

「その話は後でする。まあこっちへ来い」

「斬らんのだな、二階にいるのか」