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よあけのつじ

夜明けの辻

山本 周五郎

「新国民」1940(昭和15)年12月~1941(昭和16)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,801 字 · 86 页

青空文庫

紙屋たちが山県先生を斬ろうとするのを、伊兵衛が邪魔をしたので間違いができたらしい。どうしてそんなことになったか、わしにもまるで仔細は分らぬが、宿場の噂を集めてみるとそうなるのだ」

頼母はそういう間ももどかし気に、

「それで、そのもとの思わぬことができたというのはなんだ」

「江戸の情勢が意外にさし迫りました」

道之進はぐっと身を乗出した。

「県先生に対する幕府の探索は、網の目のように行渉っております。学問の上からは松宮主鈴どのが主となって働き、身辺のことは大目付が八方へ手を廻しているのです……御存じかも知れませんが、先生の御門下に藤井右門と申される御仁がおります」

「評判だけは聴いている」

「その右門どのが江戸新吉原で刃傷沙汰を起され、公儀の手にお召捕りとなりました……幕府が今日まで、大弐どのに手を着けることができなかったのは『尊皇の大義』を説かれるところに在ったのです。この説が根本であるため、京へ憚って手が出せなかったのです。しかし右門どのが刃傷沙汰で召捕られるとともに、幕府は一味捕縛の決心をしたのです」

「なんのために、右門どのの刃傷が先生に累を及ぼすのか」