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よあけのつじ

夜明けの辻

山本 周五郎

「新国民」1940(昭和15)年12月~1941(昭和16)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,801 字 · 86 页

青空文庫

「こんな処で待っていたとはなぜだ」

「お留守のあいだに大変なことになりました。大奥さまもお嬢さまも、お屋敷にはいらっしゃいません。旦那さまにも横目役所から手配がきております」

「そうかやはりあれが禍になったか」

板鼻の宿で山県大弐を救うため、紙屋十郎兵衛はじめ数名の者に手傷を負わせた……そうならぬよう、ずいぶん苦心したが、ついに三四人に手を負わせてしまった。

――しかし私怨ではない、大弐どのを救うためにしたことだ。津田国老には分ってもらえるであろう。

それまで大弐を刺そうとして、反対に盲無念のために討止められた人々は、津田頼母が仔細なく片付けたのを知っている。だからこの場合も、むろん国老がなんとか後始末をしてくれるだろうと、考えていた。そう考えたから、すぐ帰るよりは、少しほとぼりをさましてからのほうがよかろうと思い、また一方では、もっと深く大弐の学問に触れたいという希望もあって、二十日あまり一緒に甲州路の旅をともにして来たのであった。

大弐は展墓のため、甲斐の国巨摩郡篠原村の故郷へ帰るのだった。しかしそれは同時に、故郷の人々と今生の袂別をする隠れた意味ももっていたので、篠原村では十日あまりも滞在し、有士のために両三回ほど講筵も敷いた……伊兵衛は甲斐路の途上と、篠原村に滞在しているあいだに、大弐の思想をかなり