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よあけのつじ

夜明けの辻

山本 周五郎

「新国民」1940(昭和15)年12月~1941(昭和16)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,801 字 · 86 页

青空文庫

「先生に師事する者だけの集りであったら、外へ洩れるようなことはないと存じますが」

「かつては師事し、先生の思想に傾倒していると見せながら、じつはそうでなく、おのれの出世立身のためそうしていた者があった……その者が事態不利とみて寝返りをうったのだ」

「そんな人間が……いや、いちどでも先生の説明に耳を傾けたことのある人間の中で、そんな卑劣なことのできる者がおりましょうか」

「功刀……そのもとは帰ってすぐここへ来られたのか」

頼母はふいに別なことを訊いた。

「は、途中で家僕に出会い、母どもの在所だけ知れましたのでとりあえずここへお伺い申しました」

「では母御にはまだ会っていないのだな」

「まだ会いません」

「じつは来栖からわしのもとへ……」

云いかけたが、舌が鈍るらしく、ちょっと言葉を切ってから続けた。

「そのもとの妹と道之進との縁談を破約にしてくれと申込んでまいった」

「それは意外な話です」

伊兵衛は信じられぬというように、

「事実でございましょうか、佐和を嫁に欲しいと申込んだのは道之進でございます。母は望まなかったのですが拙者が彼の誠意を認めて婚約を結んだので、いまさら彼から破約を申出るはずはないと思いますが」