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よあけのつじ
夜明けの辻
山本 周五郎
「新国民」1940(昭和15)年12月~1941(昭和16)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,801 字 · 86 页
――これがおれの義弟になるやつだったのか。
忿怒と、憐愍と、軽侮と、色々な感情が閃光のように頭のなかでひらめいた。
「立て来栖、立って刀を抜け」
「……いやだ」
道之進は肩で息をしながら、かすれた声で女のように叫んだ。
「拙者はいやだ、拙者には貴公と斬り合う力はない、それは貴公が知っているはずだ。斬るならこのまま斬ってくれ」
「きさまおれが斬らんとでも思っているか」
伊兵衛は白刃の切尖を道之進の面上につきつけながら、
「きさまはまだ自分の陋劣さに気付いていないだろう。ちっぽけな才分に慢じて、おのれの栄達のために山県先生を売り、津田国老を売り、友を売り、婚約をさえ売った……きさまのそのとり澄ましたかっこうや分別のありそうな進退言説は、あるいは人々を瞞着してうまうま出世したかも知れぬ。だが、……いったいどれほど出世ができるんだ、それだけの代価を払ってどれほどの栄達ができるんだ」
「…………」
「仮にきさまが小幡一藩の家老になれたとしよう、しかし高々二万石の家老が、そんな代価を払うほどの栄達だと思うのか、来栖」
「…………」
「人間が生れてくるということはそれだけで壮厳だ。