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よあけのつじ
夜明けの辻
山本 周五郎
「新国民」1940(昭和15)年12月~1941(昭和16)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,801 字 · 86 页
しかしひとたびそこに巨岩が投ぜられるや浮沈そのところを異にするもの飛び去り、圧し潰されるもの、散乱昏沌としてことごとくその所在を変えおのれの位置を失った……真実だったと見えたものが虚偽の正体を曝露し、見えざるものが判然とかたちを現した。投ぜられた石が大きければ大きいほど、その影響の表れも徹底的である。山県大弐の来訪によって、幾多の生命が消え、多くの人の生涯が変った。大弐の大きさもさることながら、それはもっと深く、大弐の説く学説の真実とその価値とが及ぼした結果である。
――そうだ。
伊兵衛は強く自分に頷きながら思った。
――大いなる朝がくるんだ。未明の辻に行迷っている魑魅魍魎は、夜明けの光とともに消えなければならぬ。この国を蔽っている闇は、もうすぐ大きな朝を迎えるんだ。
馴れぬ道だったし、暗夜を行くので、鮎川の岸へ出たのはもう東天の白みかかる頃だった。
流れを越して、川治の里と訊いて行くと、五郎次の家はすぐに分った……北と東を丘に囲われた、竹藪のなかにその家はあった。屋敷廻りには豊かな果樹園があり、畑と田が鮎川の岸のほうまでひろがっていた。
竹藪を廻って行くと、裏のほうから出て来た五郎次と会った。