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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

……駕籠の中の女は何者なのだ。……なぜ老女たちも若い武士たちも、黙って無表情で突っ立っているのだ。……こいつらは俺を莫迦にしている」

いかさま四人の被衣をかぶった老女と、覆面姿の四人の武士とは、無表情のままで立っていた。顔が無表情というよりも、躯と態度とが無表情なのであった。すなわち老女も若い武士も、そこに紋也がいるということを、勘定に入れていないかのように、紋也のほうを見ようともせずに、空を見上げているのであった。

「こういう事件には慣れている」

「俺たちは毎々の出来事なのだ」

――こう語ってでもいるような、それは無視した態度でもあれば、冷淡をきわめた態度でもあった。

無表情でもなければ冷淡でもなく、まして無視していないものといえば、駕籠の中の女の眼であった。これは反対に執拗に、あたかも検査でもするかのように、紋也をいつまでもみつめている。

こういう両様の態度の中へ、紋也ははさまれているのである。しだいに怒りの感情が、胸の中へ盛り上がり昂まって来たのは、当然のことといってよかろう。「莫迦にしているのだ。嬲っているのだ」紋也はそろそろと右手を上げた。