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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

そうしてとうてい及ばない恋に、夢中になっているらしい。こういう男が思い詰めると、どんな事をやり出すかわからない」つまりこんなように思ったからであった。で、ひょいと話を変えた。

「で、只今はお前さんの一座は、どこで興行をしておりますので」

「大津の宿でございますよ」

「それじゃア大津からこの京都へまで、お妻太夫さんを探しに来たので?」

「どこへでも探しにまいりますよ」

「大変な執心でございますなあ」

「死ぬまで私は思い詰めます。そうして私の死ぬ時には、お妻太夫さんも殺します」

金兵衛は急に寒気がした。「白痴の一念というのでもあろう。思い込まれたお妻という太夫にも、俺は大いに同情するよ」――もう金兵衛は別れようと思った。

「では鴫丸さんご免なすって、これでお別れをいたしましょう」

「これでお別れをいたしましょう。いろいろ有難うございました」

朧の月光と紗のような霞とで、練り合わされているがために、千本お屋敷とご用地との露路は、煙りの底のように眺められたが、その中をトボトボと鴫丸の姿が、人間の殻のように歩いて行く。と、曲がって見えなくなった。小堀屋敷のほうへ行ったようである。