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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

「恩知らずのお方でございますこと。せっかく親切に莨のお火を、お貸ししたではありませんか。それだのにお礼もおっしゃらずに、何ということをなさるのでしょう」

こういったのは土塀の上の、白い女の顔であった。もうこの時には代官松は、土塀から離れて往来へ立って、真正面から女を睨んで、怒りと恥とに身を揉んでいた。が代官松も只者ではない。よしよし図に乗って挑戯って来るこの女をうまくあやなして、屋敷のようすを探ってやろう――こう早くも心を決めた。で、わざとらしい笑い声を立てたが、

「お前さんは当時江戸で名高い、女煙術師のお粂さんで」まずこういって声をかけた。

「はいはいさようでございますよ、御贔屓にお願いいたします」土塀の上の女はお粂であったが、こういうと白い顔をゆがめて見せた。笑いを笑った証拠である。

――ひとつ油をかけてやろう――

こう代官松は考えたらしい。

「決してお世辞ではございませんよ、お前さんの煙術と来た日には、どこでもかしこでも大評判で、うらやましいほどでございますよ」――どうだたいがいは嬉しがるだろう――代官松はニヤニヤした。

が、お粂は逆手に出た。

「煙術も結構には相違ないが、縹緻のほうがもっといいと、皆様このようにおっしゃいます」