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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
捨て石の上へ穏やかに、膝を揃えて腰をかけて、そのふっくりとした、膝の上へ、靨の見えている両手を重ねて、つつましやかではあるが無邪気な言葉で、こう娘はいい継いだが、嘉門の一人子お菊であった。
「お能の面というものは、まことによろしいものでござりますよ。しかし私はあなたとは反対に、生成や泥眼や近江女などの面に、心を引かれるのでござりますよ。特に私には重荷悪尉の面が、好もしく思われるのでござりますよ」
お菊と向かい合って捨て石の上へ、こごみ加減に腰をかけて、お菊の顔に見入りながら、少し性急にこういったのは、袴姿の武士であったが、ほかならぬ北条左内であった。眼の中に一抹の悶えがある。
と、お菊は首を傾げるようにしたが、「あのように恐ろしい重荷悪尉の面が、なぜにあなたにはお気に召しますことやら」ここでいくらか口ごもったが、「妾にはただただあの面は、醜く凄くいやらしいものに、思われるだけでござりますよ」
「では」と左内はそれを聞くと、眼の中の一抹の悶えの色を、濃くするようにまばたきをしたが、「それではきっとお菊殿には、この私の顔などをも、醜く凄くいやらしいものに、お思いなさるでござりましょうな?」