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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
「さればさ」紋也は嘲るようにしたが、「裏切る心よ! ……伝わっておろうよ!」
「裏切る心! ふふんばかな!」こうはいったものの桃ノ井兵馬はいよいよ不安に堪えないようであった。
と、そういう兵馬の心を、早くも紋也は見抜いたらしく、紋也のすがすがしい性質としては、少しく大人気ないほどにも、突っ込んだ調子で繰り返した。
「美作殿と左内殿との、父子の関係は別なものとして、親や子は万事が似ているものと見えます。心も似るでござりましょうよ」
で、相手の返辞を待った。
紋也の言葉は兵馬に痛いもののように思われた。ブルッと一つ身顫いをしたが、噛みつきたげの兇猛の眼つきで、紋也の顔を見上げ見下ろした。
「なるほど」と突然に兵馬はいったがその声は憤懣に満たされていた。「裏切る心が拙者にあると、こう貴殿にはいわれる気か!」相手の言葉の出よう一つで、すぐにでも切ろうとでもいうように、柄頭を拳でトントンと打った。と、目貫の象篏が、黄金無垢でできていたのでもあろう。陽をはねてキラキラと輝いた。
「さようさ」と紋也はうそぶくようにいったが、これもいつしか右の掌を、刀の柄へ掛けていた。