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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
「主として体躯にござります」――いよいよ兵馬は笑い声でいう。
「あの女は美しゅうございますので」
「ほほう」と美作にはわかったようであった。「そちはあの女を好いていると見える」
「いえ私は憎んでおります」兵馬は美作をさえぎるようにしたが、「とはいえあの女が美人であると、そういう点につきましては、なんの異存もござりませぬ」
「さようか。……しかし、……どうしようというのか?」
「あの女を私ひっ捕えまして、その美しさを味わいます。と、そのことは私にとりましては二重の得となりましょう。……一つは復讐となりまするし、一つは享楽になりますので」
「凄いの」と美作は驚いたようにいったが、「その凄さが俺には好きだよ。よしよしお粂というあの女のことは、いっさいそのほうにまかせることにしよう。素性も聞かないことにしよう。……それにしても火の手はまだ上がらぬかな」
ふと立ち止まって北条美作は両国の方面と思われるほうへ、覆面頭巾の顔を向けた。空には真珠色の月の光が、海原の潮を想わせるように、茫々として満ちている。込み入った都会の建物は、あるいは高くあるいは低く、あるいは尖りあるいは扁平に、その空の下からささえている。