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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

なって、殺気立った気分が醸されたばかりか、なんとなく場近いと思われるような、幾群れかの人間が物でも探すように、露路や小路へ入り込んだり、家々の門をのぞいたりするので、「はてな?」と思わざるを得なかった。と、そのうちに眼に付いたのが、目明しの代官町の松吉であった。「いよいよこいつははてなになったぞ」――で金兵衛は見え隠れして、代官松の後をつけてこの木蔭へまで来たのであった。そうして立ち聞きをしたのであった。

「偉いことになったぞ、大変だあ!」で金兵衛は地団太を踏んだ。「さあこうしてはいられない! 紋也さんとお粂さんとがしめられてしまう! どうしたらいいのだ! どうしたらいいのだ!」――外に策のあるはずがない。笹家という家へ駆けつけて行って、紋也とお粂とへ事情を話して、逃がしてしまうより策はない。「まに合ってくれ! まに合ってくれ……」で、金兵衛は走り出した。

木立ちを出ると空地である。行く手に一群の家がある、が、そこには笹家はない。南のはずれにたむろしている、私娼窟の中の一所に、都合悪く笹家はあるのであった。で、笹家まで駆けつけるには、空地をトッ走って家の群れへはいって、露路から露路をくぐりぬけて、二所ばかりの小空地を越して、ふたたび家の群れの中へはいって、さらに露路から露路を縫い入って、はじめて達すること