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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

の賭博屋から「銅の小判」というような、いかもの屋までも並んでいる。そういう間に介在して、飲食店ができている。卵の花寿司、鰯の天麩羅、海老の蒲焼き、豆滓の寿司――などというような飲食店で、四文出せば口にはいろうという、うまくて安い食物ばかりを、選んで出している飲食店なのである。

大川に添った川岸には、水茶屋がビッシリと並んでいる。軒を並べているところから、これを一名並び茶屋ともいう。

「梅本」「嬉し野」「浮舟」「青柳」など、筆太に染め出した、浅黄の長い暖簾などが、ヒラリヒラリとなびいている。店の作りが変っていて、隣りの店とのへだてがない。隣り同士で話ができる。「柳原へ出る夜鷹のひととせ、そりゃアとほうもない別嬪で。ためしに買ってご覧なさい」「へいへい昨晩こころみました」「ああさようか、お早いことで」などというような会話もできる。銀ごしらえではあるまいか? そんなようにも思われるほどに、ピカピカ光る大きな茶釜が、店の片隅に置いてある。そこから白湯を汲み出しては、桜の花をポッチリ落とし、それを厚手の茶碗などへ入れて、お客の前へ持って来る。持って来る茶屋女が仇者であって、この土地の名物である。