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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

取って返して戦ったならば、疲労れ切っている躯である、おおかた斃されてしまうだろう。……そういう予感はあったけれども、見捨てて自分だけ助かろうという、卑怯な心にはなれなかった。

「お粂殿! お粂殿! お粂殿!」と、人の声、足音、物の破壊れる音、火事に付き物の嵐の音、声や音に一ぱいに充たされている、ここの修羅場の騒音を通して、紋也は大音に呼んでみた。と、どうだろうその声に答えて、数間の先からお粂の声が「紋也様!」とすぐ答えたではないか。意外な結果に驚いて、声の来たほうへ紋也は向いた。そこにあるものといえば群衆であったが、その群衆を脇差しで払って、お粂がこちらへ走って来るのが見えた。

「おお、お粂殿か、お怪我はなかったか」安心した紋也は走り寄りながら、こう叫んでお粂を抱えるようにした。「金兵衛殿は? 門弟どもは?」

紋也の腕に抱えられて、お粂は荒いあえぎ声を上げた。「ご、ご安心なさりませ、金兵衛もお二人のご門弟衆も、道を変えておのがれなさいました」――で、紋也にひしとすがった。「意外の助けが出ましたので……みんなそのほうへかかりまして……隙のできたのを見てとって……めいめいのがれたのでございます。