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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

「このお若い衆は気に入ったよ、ああ妾の気に入ったよ。この人へ接吻をして上げよう。この人は嬉しがるに相違ない。妾がこの人を嬉しがるように。……まだこの人は童貞らしいよ。まだこの人は女子の肌の、胸から下を見ていないよ。この人の心は顔立ちでわかる。冷やかなものや堅い物や、寂しい物や静かなものに、ずっと養われて来たらしいよ。では妾が見せて上げよう、それとはまるっきり別なものを。……そうしてこの人へ教えて上げよう、それとはまるっきり別の物のほうに、生き甲斐のある物のあるということを。……半分しかこの人は知らないのだよ。だから妾は後の半分を、この人へ知らせて上げることにしよう」

で、馨しい匂いが、香料のように匂って来たのであった。と、飼い犬でも甘やかすような命令的ではあるけれども、優しい声が駕籠の中から聞こえた。

「おいで、さあ、ここへおいで。お出し、さあ、お前の手を」

――と、その声のいい終えられた時に、二本の細い白い線が、暗い駕籠の中から差し出されて、小次郎のほうへのばされた。袖が捲くれて二の腕までも露出された女の腕であった。必死の闘いの直後において、この光景に接したばかりか、例の芳香に燻らされたのであった。